小幡グループ

バイオマテリアルと細胞の関係

 身体の組織を損傷・欠損した場合に、生体材料(バイオマテリアル)を患部に埋植して治療する方法があります。埋植されたバイオマテリアルに対し様々なタイプの細胞が反応し、材料や周辺環境の条件に依存はしますが、組織の回復に向けて行動を開始します。つまり、バイオマテリアルと細胞の関係性は組織の再生を左右する重要な因子の一つです。
 我々のグループでは、骨組織と皮膚組織の再生に重要な間葉系幹細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、血管系細胞、さらに免疫系細胞にも着目し、バイオマテリアルに対する各種細胞の応答性の調査を進めています。ここで得た結果は、細胞の応答性を制御可能な新規生体活性セラミックスの組成設計につなげています。これらの研究はUCLとの共同研究で進めています

免疫系細胞を介した間葉系幹細胞による骨組織再生機能の発現におけるバイオセラミックスの影響について

 免疫系細胞は身体の中に入った異物に対して瞬時に反応する細胞であり、つまり埋植されるほぼ全てのバイオマテリアルに対して反応する細胞と言えます。免疫系細胞を産生する組織幹細胞は造血幹細胞であるのに対し、骨芽細胞や線維芽細胞を産生するのは間葉系幹細胞です。異なる系統同士であり無関係と思われがちですが、実際は特に骨髄という空間において密接な関係性を持っていることが近年の研究で見出されています。我々は特に免疫系細胞の一つであるマクロファージに着目し、マクロファージが産生するサイトカインを受けて発現する間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化や石灰化のプロセスについて研究しています。このプロセスに対し、バイオマテリアルやイオンが与える影響について調査しています。

骨組織の再生に対するイオン効果の比較および複数種のイオンの組合せ効果について

 多くの生体活性セラミックスは、リン酸カルシウムまたはケイ酸カルシウム系組成です。どちらの材料も非常に優れた骨組織再生の誘導機能を示す一方で、果たして同じプロセスを経て誘導しているのか、再生された骨組織は構造上同じものなのか、といった点について不明でした。そこで我々のグループでは、最もシンプルな実験系としてリン酸イオンとケイ酸イオンを添加した培養培地を用い、骨芽細胞の石灰化のプロセスの違いや産生された石灰化組織について調査しています。特に石灰化組織については、いわゆるミネラル分にあたるリン酸カルシウムだけでなく、コラーゲンの構造にも着目して研究しています。細胞培養試験をメインとしつつ、FTIRやRamanなどの諸分光法を用いた解析、共焦点レーザー顕微鏡などを用いた詳細な形態観察を組み合わせて研究を進めています。

 一方で、多くの生体活性セラミックスは複数元素から構成されており、よって材料の溶解や吸収とともに複数種のイオンが同時に周辺の細胞に供給されることが予想されます。これまでは個々のイオンによる細胞への影響に着目した研究が多く、複数種のイオン供給による影響については不明でした。我々のグループではケイ酸イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等に着目し、これらイオンが組み合わさることで発現する細胞に対する新たな効果について調査しています。

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機能性バイオマテリアルの開発

 組織の再生を迅速化させるために、バイオマテリアルに機能性物質を担持させることは有効です。しかし、このような物質の一部は熱や有機溶剤に対して弱かったり、適量を供給できるシステムを構築しないとむしろ悪影響を与えたりしてしまいます。また同時に、材料としての有用性を高めるためにも、優れた操作性を兼ね揃えなければなりません。
 我々のグループでは、大きな比表面積と優れた柔軟性を兼ね揃えた不織布やわた状の繊維構造体や、優れた細胞侵入性を持つナノ粒子に着目し、機能性物質を担持・徐放する機能を持つバイオマテリアルを開発研究しています。これらの研究は、ICL、University of Birmingham、大阪府立大学、名古屋工業大学他分野研究室、そして企業との共同研究として実施しています。

成長因子や薬物徐放機能をもつバイオマテリアル

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 組織の再生を促す機能を持つ物質として成長因子があります。多くの成長因子はタンパク質であり、熱や有機溶剤などに弱く取り扱いによっては簡単に変性・失活してしまいます。このような繊細な成長因子ですが、これを変性させずにバイオマテリアルに担持させることができたならば、身体内に埋植した際の組織の回復を促すことが可能となります。
 我々のグループでは、水を溶媒として常温合成が可能であり、かつ成形後は難水溶性を示す無機有機ハイブリッド不織布を開発し、本材料の成長因子担持機能について調査を進めています。一方で、表面に様々な物質を修飾可能なナノ粒子についても研究しています。ナノ粒子はそのサイズゆえに細胞内部に侵入しやすく、機能性物質の担体として期待されます。材料についての化学構造解析・物理化学的特性の評価・タンパク質活性評価・細胞培養試験など、様々な解析や評価方法を組み合わせて研究を進めています。

抗菌性と細胞機能促進効果を兼ね揃えたバイオマテリアル

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 バイオマテリアルの埋植中の予期せぬ細菌感染は、臨床の場において大きな課題の一つとなっています。特に皮膚の創傷治癒においては、外部に晒されやすい条件下であるがゆえ重要な課題です。そこで我々のグループでは、抗菌性イオンを徐放し、かつ組織の再生を促進する機能を持った慢性皮膚創傷用バイオマテリアルの開発を目指して研究を行っています。特にガラスに着目し、銀などの抗菌性イオンやホウ酸を導入したケイ酸塩ゾルゲルガラス、および銅担持ガラスなどについて研究しています。単に抗菌機能を示すだけでなく、組織の再生に有効な材料を見据えて組成設計し、化学構造解析・物理化学的特性の評価・細胞培養試験・抗菌試験など、様々な解析や評価方法を組合わせて研究を進めています。